Department of Biochemistry
Jichi Medical University School of Medicine

Our Research1.遺伝子治療

本動画の作成は2022年度 ファイザー公募型医学教育プロジェクトの支援を受けました。動画の二次利用、許可のない転載は禁止いたします。

遺伝子とは?

生き物の体はたくさんの「細胞」でできています。遺伝子は、体中の一つ一つの細胞の中にある「生命の設計図」です。精卵からヒトの体ができる過程では、筋肉や骨、脳や神経、心臓や血管、胃や腸など、すべての臓器が遺伝子の情報をもとに作られます。また、体を動かす、神経の信号を伝える、傷を修復する、病原菌を退治するなど、生命活動に関わるありとあらゆる物質が遺伝子の情報が読み取られ作り出されています。遺伝子は「DNA」と呼ばれる長いひも状の構造に並んでいて、それが折りたたまれて「染色体」となり、「核」の中に存在します。ヒトでは約23,000個の遺伝子があることがわかっています。遺伝子とはDNA配列の一部(領域)に存在するタンパク質の設計図の部分を指します。体の中には様々な細胞があり、基本的に、すべての細胞の中には同じ遺伝子のセットが入っていますが、すべての遺伝子がいつも働いているわけではありません。必要な時に必要な場所で、必要な物質を作る遺伝子だけが働き、他の遺伝子は休んでいます。

遺伝子からタンパク質ができるまで

遺伝子の情報をもとに作られる物質はタンパク質です。遺伝子が含まれているDNAは、4種類の「塩基」と呼ばれる暗号のような物質が繋がってできています。4種類の塩基は、アデニン(A)、チミン(T)、シトシン(C)、グアニン(G)です。このたった4種類の塩基が一列に並び、その暗号の組み合わせで、どんなタンパク質を作るかが決まります。DNAは、二本の鎖がペアになっています。タンパク質を作る時には、鎖のペアが離れ、遺伝子をコピーするようにメッセンジャーRNAが作られます。この工程を転写と呼びます。遺伝子の情報がコピーされたメッセンジャーRNAは、核の外のタンパク質の製造工場であるリボソームに運ばれます。リボソームでは、メッセンジャーRNAの配列に従って、タンパク質のもとになる20種類のアミノ酸を一つずつ並べていきます。この工程を翻訳と呼びます。翻訳が最後まで進むと、数珠つなぎのアミノ酸が立体構造を形成し、遺伝子由来のタンパク質が完成します。こうしてそれぞれの遺伝子が持つ塩基配列の情報により、形も大きさも役割も全く違った様々なタンパク質が作られます。ほとんどの場合は正常なタンパク質が作られますが、遺伝子の異常で正常なタンパクが作られなくなったり、異常なタンパク質が出来てしまい、それらが生まれつきの病気を引き起こすことがあります。

遺伝子治療とはどんな治療?

遺伝子の働きを利用した新しい治療法として、遺伝子治療が進歩しています。現在、主に行われている遺伝子治療は、体の中で不具合のある遺伝子自体を治す治療ではなく、体の外から細胞に遺伝子(DNA)を届け、病気を治すために役立つタンパク質を作らせる治療法です。つまり、遺伝子“を”治療するのではなく、遺伝子“で”治療する方法と言えます。

遺伝子治療の方法は2種類あります。その一つは、目的の遺伝子を持つベクターそのものを、注射などで体内に直接投与する方法です。in vivo遺伝子治療と呼ばれます。投与されたベクターは、目的の臓器の細胞内に侵入して、核内に遺伝子を届け、もともと持っている遺伝子と同じ仕組みで目的のタンパク質を作ります。もう一つは、目的の遺伝子をあらかじめ体外で導入した細胞を投与する方法です。こちらはex vivo遺伝子治療と呼ばれます。まず、体内の細胞を取り出し、ベクターを使ってそれらの細胞に目的の遺伝子を組み込みます。この遺伝子由来のタンパク質が作られた細胞を薬と同じように投与します。

遺伝子治療とベクター

遺伝子治療で、細胞に遺伝子(DNA)を届けるには、主にウイルスの細胞に入り込む力を利用することが多いです。ウイルスは人の細胞に入り込んで増殖し、病気を引き起こす悪者としての側面がよく知られていますが、遺伝子治療に使うウイルスは、病原性や増殖にかかわる遺伝子を取り除いた外側の殻に、治療に役立つタンパク質の遺伝子を入れたものです。ウイルスが細胞の中に入り込む力は残っていますので、それを利用して目的の遺伝子を細胞の中に届けるわけです。この場合の遺伝子の運び屋をベクターと呼びます。

遺伝子治療の実際

こうした遺伝子治療は、すでに様々な疾患で行われています。ベクターを直接投与するin vivo遺伝子治療は、主にアデノ随伴ウイルス(AAV)という種類のウイルスをベクターとして、目の病気や脊髄性筋萎縮症、パーキンソン病など神経の病気、肝臓に原因のある血友病など先天性の病気に対して使われはじめています。一方、遺伝子を導入した細胞を投与するex vivo遺伝子治療は、白血病や悪性リンパ腫など血液のがんに対してCAR-T細胞療法が行われています。まず、がん免疫で中心的役割を果たすT細胞を患者自身から取り出して、がん細胞を認識して攻撃力を高める機能を持つCAR遺伝子を導入します。この細胞(CAR-T細胞)を患者さんに投与すると、標的のがん細胞を見つけ、死滅させるようにはたらきます。これら以外にも、様々な疾患に対する遺伝子治療が開発中であり、遺伝子治療の進歩により、これまで治療が難しかった病気に対する治療の選択肢が増えることが期待されています。

研究室での取り組み

我々の研究室では、特にAAVベクターを用いた血友病に対する遺伝子治療を開発しています。国産の血友病に対する遺伝子治療薬を患者さんにお届けするのが私達の目標です。

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