Department of Biochemistry
Jichi Medical University School of Medicine

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ゲノム編集による遺伝性血管浮腫の治療

2024年08月06日

今年の最初に遺伝性血管浮腫に対するゲノム編集治療の論文がN Engl J Medに掲載されました(N Engl J Med 2024;390:432-441)。この論文の前には2021年にトランスサイレチンアミロイドーシスのゲノム編集治療も報告されています。Cas9のmRNAとgRNAを搭載した脂質ナノ粒子(LNP)に搭載して、患者さんに投与した臨床試験(P1/2試験)です。LNPは脂質膜のなかにmRNAを搭載できるため、COVID-19のワクチンにも応用されていますが、LNPはApoE受容体を介して肝臓に比較的選択的に取り込まれます。これを利用して肝臓細胞のゲノム編集を行うという戦略です。遺伝性血管浮腫はC1エラスターゼインヒビターの機能が低下して、カリクレインが高分子キニノーゲンをブラジキニンにする経路の中でブラジキニンの過剰によって生じます。そのためカリクレインの前駆物質であるプレカリクレイン(肝臓で分泌される)をゲノム編集で機能をなくしたのが、この研究です。LNPの投与で高用量群では90-90%のプレカリクレインの抑制が認められています(図)。もちろん、浮腫の発作もかなり抑制されています。すでに、鎌状赤血球症に対するゲノム編集治療が上市されており、これから、ゲノム編集治療も現実化しそうです。

/https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2309149